●1999年 1月の企画モノ●

ウサギを知らずして
兎年を語るなかれ!?


うさぎ
(英) Rabbit

 齧歯類に似た動物で、ナキウサギとともにウサギ目を形成する。 また他の分類法によれば、これらを齧歯類中の重歯亜目に入れることもある。 ウサギ目は上の門歯が4本あることで、門歯が2本の齧歯類と区別される。 そして顎骨、肘、くるぶしの構造に特徴がある。
 ウサギは一般に長い耳と後肢をもっている。 尾は短く綿のような毛で包まれている。 草食性で、柔らかい木の葉や芽、さらに果実や樹皮を食べる。 多くは糞食性をもち、食物は完全に消化されないまま消化管を通過し、その糞が再び採食されて二度目の消化管通過によって完全に消化される。 ウサギは多産動物で、繁殖季節のある種類では早春から秋まで繁殖し、年に2回出産して各産 1〜8匹の子を産む。 繁殖季節のない種類では、多いものは年に 5〜6回も出産する。 妊娠期間はほとんどの種類が 4〜6週間である。 出産時の子の状態によってアナウサギ類とノウサギ類に分けることがあるが、この区別は厳密な系統分類とは一致していない。

アナウサギ類

 出産直後の子は無毛・盲目で自由に動けず、毛を敷いた巣の中で育てられる。 アナウサギ類は一般にノウサギ類より小さいが、大きいものもいる。 典型的なアナウサギ類は「ベルジアンヘア」と呼ばれるヨーロッパのアナウサギ Oryctolagus cuniculus で、これが家畜化されて、数百年来世界各地で飼育されてきた。 雌は生後8ヶ月で繁殖可能となる。 妊娠期間は約 30日で、分娩後短期間で再び妊娠する。 ヨーロッパのアナウサギは藪や茂みにすみ、夕方から夜間にかけて餌をとりに野に出ていく。 おとなしく、また臆病で、一般に群をつくって生活している。
 アナウサギ類の他の属には次のようなものがある。 数種のワタオウサギ Sylvilagus は北アメリカで普通にみられる。 北アメリカ西部にすむコビトウサギ Brachylagus はアナウサギ類中最小である。 少し大型のメキシコウサギ Romerolagus はノウサギに似ており、アマミノクロウサギに近い。 ヒマラヤ地方には剛毛性のアラゲウサギ Caprolagus がおり、スマトラには耳の短いスマトラウサギ Nesolagus がいる。
 アナウサギ類は肉食動物の食糧の大きな部分を占めている。 また、ツラレミアのような人体に感染する病気の病原体の運搬者でもある。 さらにある地方では耕作地の穀物や放牧場を荒らす害獣ともなっている。 アナウサギ類は世界中どこにでもみられる最も普通の小型狩猟動物である。 その毛皮は比較的弱いが、毛は毛皮・フェルト・毛糸の材料として大量に用いられている。

ノウサギ類

 ノウサギ類の子は地上の巣で生まれ、初めから毛が生えていて目も開いている。 十分に成長して生まれるので、出生後まもなくはね回る。 代表的なものは、ヨーロッパの中部及び南部・近東・北アフリカに分布するヤブノウサギ Lepus europaeus である。 ユキウサギ Lepus timidus は北方にすみ、毛色が変化する。 この種はおそらく北アメリカの極北に分布するホッキョクウサギ Lepus arcticus と同種であろう。 北アメリカにはカンジキウサギ Lepus americanus や数種のジャックウサギ類 Lepus townsendii, Lepus californicus などが広く分布している。 東南アフリカにはアカウサギまたはイワウサギ Pronolagus と呼ばれるものが分布している。
 ノウサギ類は特によく発達した後肢をもっていて、耳は通常頭部より長い。 北方にすむものは冬は白色になり、夏は普通灰褐色になる。 しかし、最北方にすむものには、一年中白色のままでいるものもある。 中間緯度にすむものは、季節によって部分的に毛の色を変える。 ノウサギ類はおもに夕暮れや夜に活動する。 驚いたときにはかなりの速度で走り、一度に 3〜4m も跳ぶ。 また追っ手を避けようとするときには驚くほどの速さで体をかわし、時には空中に跳び上がってあたりの様子を見ることもある。 ノウサギ類は多くの哺乳類や鳥類や爬虫類のえじきにされている。

日本のウサギ

 日本には北海道のエゾナキウサギを含めて、4種のウサギがいる。 1928年に発見されたエゾナキウサギ Ochotona hyperborea yesoensis は頭胴長 11〜18cm の小さなウサギ類で、尾はなく、四肢も耳も短く、外形はテンジクネズミ(モルモット)に似ている。 北見、置戸地方では低地にもいるが、多くは高山にすみ、大雪山、忠別岳、石狩岳、日高山脈などの岩石の多いところに群居する。 昼夜とも活動し、小鳥に似た声で騒がしく鳴く。 夏と秋に岩の下に大量の食物をたくわえ、冬はそれを食べて過ごす。 近似の別種類はサハリン・アムールからモンゴルまで広く分布している。
 北海道のエゾユキウサギ Lepus timidus ainu はユーラシアの北部に広く分布するユキウサギの亜種で、頭胴長 58cm に達し、夏は灰褐色であるが冬は耳の先の黒色の部分だけを残して純白に変わる。 本州・佐渡島・隠岐島・四国・九州のノウサギ Lepus brachyurus はやや小さく、頭胴長 54cm 以下で、尾がユキウサギよりも短い。 冬に白く変わるものをトウホクノウサギ(エチゴウサギ) Lepus b. angustidens といい、白くならないものをキュウシュウノウサギ Lepus b. brachyurus と呼んで区別することがある。 前者は本州の日本海側と東北地方の積雪量の多い地方に分布し、後者はそれ以外の雪の少ない地方にすむ。 平地から高山までの草原や明るい林に多く、スギ・ヒノキ・カラマツなどの植林に害を及ぼす。 エゾユキウサギとあわせて 2,000,000頭以上がいる模様である(1972年の推計)。
 奄美大島および徳之島の特産のアマミノクロウサギ Pentalagus furnessi はメキシコのメキシコウサギ、アフリカのアカウサギとともに、昔ウサギ亜科に属し、他のすべてのウサギ類(ウサギ亜科)と異なっている。 ムカシウサギ亜科は第三紀に栄えた原始的なウサギ類で、13属のうち 10属は絶滅した。 したがってアマミノクロウサギは生きた化石ということができ、学術上きわめて貴重なものとして特別天然記念物に指定されている。 ノウサギよりやや小型で頭胴長 43〜47cm、尾と足が短く、前肢の爪は長く、穴を掘るのに適している。 体毛は荒く黒褐色である。 山林にすみ、岩の下に大きな穴を掘って小群で生活する。 習性はアナウサギ類に似ている。 年2回一子、まれに二子を産み、特別に掘った育子用の穴で育てる。

カイウサギ

 ヨーロッパのアナウサギの家畜化されたもので、用途に応じて毛用種・肉用種・毛皮と肉の兼用種・愛玩用種などができている。 そのうち主要な品種には次のようなものがある。

【アンゴラ種】
 フランスでは古くからこの毛を利用してきており、毛用種中最もすぐれたものである。 毛色によって十数種の内種があるが、白色のものが最も多く飼育される。 イギリス系はローヤルアンゴラと名づけられ、体重 2.5kg ほどである。 フランス系はやや大きく、体重 3.5kg である。 アンゴラ種の特徴は長毛で、毛は1ヶ月に 2.5cm ほど伸びるので、年に 3〜4回刈れば 300〜450g の毛が得られる。 毛は特殊な織物や毛糸として重宝される。
【ニュージーランドホワイト種】
 アメリカでつくりだされた毛用種で、体重 4kg、体型は前半分がよく発達し、肩幅と腰幅の差が少ないので毛皮がほぼ長方形になり、利用度が高い。 本種は改良の途中にアンゴラ種を入れたため毛質が少し細長く、弱い欠点がある。 日本白色種の改良に用いた歴史がある。
【チンチラ種】
 毛色が南アメリカ産の動物チンチラに似ているのでこの名がある。 フランス原産の毛用種で、染色せずにそのまま用いられる点が珍重される。
【ベルジアンヘア種】
 ベルギー原産で褐色の毛皮をもち、ノウサギに似ている。 イギリスとアメリカで大型に改良され、肉用種として重宝される。 肉は特にソーセージの内容物中につなぎとして混入される。
【日本白色種】
 日本で最も広く飼育されるウサギで、毛色は純白、体重は生後8ヶ月で 4.5kg、毛は長さ 2.5cm ほどになる。 耳の長さが 18cm 未満のものを標準としており、毛皮と肉の兼用を目標に改良されたものである。

 カイウサギはさらに実験用動物として使用され、マウス(ハツカネズミ)やモルモットに比べて体格が大きいので、睾丸内接種・前眼房内接種など、特殊な組織での病原体接種実験に便利である。 また、免疫血清を製造するのにも使用される。


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