●1998年12月の企画モノ●

ペペロンチーノを科学する


 私は今スパゲティにハマっている。 讃岐生まれの私は昔からめん食いで、当然のごとくうどんを主食代わりにしていた。 でもスパゲティはそんな私を動かした。 他の麺類より調理に時間がかかるのが難点だが、時間をかけただけ自分好みの一皿になるところが気に入り、本を数冊買い込んで研究するようになった次第である。
 数百種類とも言われるスパゲティのバリエーションの中で、私が最も気に入っていて奥が深いのが「ペペロンチーノ」である。 にんにくととうがらしをオリーブ油で炒めただけのソースを絡めるという単純この上ないスパゲティだが、単純だからこそ難しい。 だからヒマさえあれば研究してみる。 母親に「栄養がない」とよく言われるのだが、ペペロンチーノだけで1冊の本になるくらいだから何かしら秘密があるのだろうと思い、このたび題材とするに至ったわけである。
 雑談だが、イタリアの国旗の色はトマトの赤、チーズの白、バジルの緑とよくいわれている。 これはピッツァマルガリータ(この場合モッツァレラチーズ)にそのまま当てはまる。 で、スパゲティの場合はというと、とうがらしの赤、にんにくの白、バージンオリーブオイルの緑だそうである。 やはりスパゲティ界の「素うどん」と考えてよいだろう。 本当に雑談であった。

とうがらし
(英) Red pepper, Chili pepper

 とうがらしは熱帯アメリカが原産(?)の香辛料で、大航海時代にコロンブスが持ち帰って以来あっという間に全世界へ広まった。 しかも交雑しやすいためたくさんの種類があるが、原種はただ1種である。

 とうがらしの辛み成分はカプサイシンというアルカロイドで、辛み性健胃薬として食欲増進・消化促進などの効能をもたらす。 もちろん摂りすぎると胃腸障害をきたす。
 また、皮膚刺激剤として肩こりや神経痛などにも効く。

 とうがらしは辛味種と甘味種に大別される。 一般にとうがらしと呼ばれるものは辛味種である。 セラノ・ハラペーニョ・カイエン・タバスコなどの種類は有名だ。
 未熟なとうがらしはビタミン A・C や無機塩類を多量に含むため、保健食品として評価された。 そのため未熟な甘味種が「ピーマン」の名で栽培されはじめる。 ピーマンは戦後急速に消費が伸び、ビニールハウス栽培の増加も手伝って、元祖とうがらしを圧倒している。
 このほか、ししとうも甘味種のひとつである。

 とうがらしに関しては資料が少なく、記述内容もこれだけしかなかったことをお許し願いたい。

にんにく
(英) Garlic

 にんにくは、調味料として用いられる量が最も多い。
 そのほか生食・漬物・ピクルス・薬用などにも用いられる。
 利用部分も球(鱗茎)のほか、生茎(花蕾部)、発芽したままの小球など多岐にわたる。

 国内では戦後、食生活の変化に伴って青果物としての需要が伸びはじめ、輸出も増加している。
 このほか、乾燥球根を粉末にするガーリックパウダーや、搾油してガーリックオイルとし他の調味料と一緒にして調味料とするなど、加工原料としての利用範囲も広まり、需要が増加している。

 にんにくの生育適温は 18〜20℃で、耐寒性・体温性ともあまり強い方ではない。

<にんにくに関するデータ>

(可食部 100g 中)
廃棄率 25%
カロリー 84cal
水 分 77.0g
タンパク質 2.4g
脂 質 0.1g
炭水化物 糖質 19.3g
繊 維 0.7g
灰 分 0.5g
カルシウム 18mg
ナトリウム 0mg
リ ン 67mg
 鉄  1.7mg

 にんにくは、いわゆる「ニンニク臭」を持っているが、これは含硫黄アミノ酸であるアリイン(Alliin)を含むためである。 アリイン自体はそれほどにおわないが、細胞が破壊されると、酵素アリナーゼ(Allinase)が活発に働きだし、アリインを分解してアリシン(Allicin : C6H10O2S)を生成し、強烈なにおいを出すようになる。
 アリシンはビタミン B1 を活性化し、ある種の病原菌に対する殺菌効果を示すため、にんにくをはじめとするネギ類は古くから薬用植物として用いられてきた。

 にんにくやにらを食べたあといつまでもにおうのは、アリシンが口中の粘液・粘膜などのタンパク質と結合してなかなか消えないためである。 ペペロンチーノにおいては、にんにくをオリーブオイルでじっくりと炒めることによって、細胞を傷つけずにアリナーゼの働きを鈍くし、アリシンの発生を押さえ、悪臭を少なくしている。

オリーブ油
(英) Olive oil

 オリーブは、気温の高いところに適する常緑の高木で、地中海沿岸地域とアメリカに栽培される。

 果実の含油量は 40〜60%で、圧搾法・抽出法を併用して採油する。 パルプ化したオリーブの実を熱プレスにかけて油を採取した後、残ったかすをさらに二硫化炭素やトリクロロエチレンのような溶剤で処理して抽出油を得る。 圧搾油は淡い黄緑色を帯びた特有の香りを有する油で、精製・脱臭などの操作を施さずにそのまま製品にされる(エクストラバージンオイル)。 溶剤抽出した油は orujo oil または sulfer olive oil と呼ばれて、不鹸化物の多い低品質の油である(ピュアオリーブオイル)。 不鹸化物としてはスクアレンやトリテルペノイド酸などが検出されている。

<オリーブ油に関するデータ>

沃素価 75〜90
鹸化価 185〜197
比 重 0.914〜0.919
屈折率 1.4654〜1.4683
融 点 0〜6℃
不鹸化物の含量 0.5〜1.4%

ミリスチン酸 C13H27COOH 0.1〜1.1%
パルチミン酸 C15H31COOH 7.0〜14.7%
ステアリン酸 C17H35COOH 1.0〜2.4%
オレイン酸 C17H33COOH 80〜85%
リノール酸 C17H31COOH 4.0〜12%

大部分がオレイン酸のため安定で不活性である。

 主に食用・化粧品用・薬用・純オレイン酸の原料として用いられる他、溶剤抽出された低品質の油は石鹸の原料にもなる。
 我が国で消費されるオリーブ油はほとんど地中海沿岸諸国から油として輸出されたものである。

ペペロンチーノの作り方

(材料は2人分)
スパゲティ(1.5〜1.7mm) 200g
とうがらし 1本
にんにく 2かけ
オリーブオイル 
(エクストラバージン) 
大さじ4
 塩 適宜

  1. にんにくはみじん切り、とうがらしは種を取って小口切りにしておく。
  2. 鍋に湯を沸かす(最低でも2リットル)。 沸騰したら塩を湯1リットルあたり 10g 入れ、スパゲティを投入する。
  3. フライパンにとうがらし・にんにく・オリーブオイル・塩少々を入れてからコンロに点火する。 弱火でじっくりと炒め、にんにくがきつね色になる直前で火を止め、スパゲティを待つ。
  4. スパゲティが好みの固さになる2歩手前でざるにあげ、フライパンで手早く和える。 水分が足りなければゆで汁を足して調節する。
  5. 皿に盛り、もたもたせずに食べましょう。


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